もりしたクリニック webレクチャー (3)
(3)成人の低血圧;症状編
低血圧は日本の人口の15%程度にあると言われ、ごくありふれたものです。ありふれたものであるがゆえに病気として重要視されておらず、病院にかかっても「低血圧だから大丈夫、体質ですよ」で終わらせられてしまうことが多々あります。しかし、体質といっても、低血圧には、何ら症状のない無症候性のものからつらい症状の慢性的に続く病的なものまでさまざまなパターンがあります。前者については放置しておいても問題はなく、人によっては低血圧であることすら気付かずに過ごされているかもしれませんが、後者の場合は何らかの治療を必要とします。ここに低血圧の難しさ、「大丈夫ですよ」では終わらせられない問題があります。
特徴
基本的に、持って生まれた体質としての低血圧傾向があります。通常、思春期を過ぎるころから症状は改善傾向となりますが、改善せずに持続するのが成人の低血圧です。一般に、女性に多い傾向にあります。初潮とともに症状が始まったり、生理のたびに悪化したりすることから、女性ホルモンの血管拡張作用が影響しているのではないかと考えられています。
症状
低血圧の本質は、文字通り「血圧が低い」ということ、つまり心臓から全身の隅々にまで十分な血液の供給がなされていないということですが、問題はこればかりではありません。これだけなら、昇圧剤といわれる血圧を上げるお薬を服用するだけで症状は改善するはずですが、現実はそうではありません。このようなお薬が効かない人もいます。
なぜそうなるのでしょうか。低血圧という病態の根底には、まず血圧を調節している自律神経の問題があります。さらに、低血圧の人に見られる一定の性格傾向、そして、慢性疾患であることと疾病に対する無理解ゆえに起きる社会的な諸問題があります。それらいくつかの問題が合わさって、低血圧という一つの病態を形成しているのですから、治療においては、血圧を上げるということに加え、自律神経系、心理的側面、社会的側面の調整が必要になってくるのです。
これを踏まえ、低血圧の症状は、身体面、心理面、社会面に分けて考えるようにします。
身体面の症状
低血圧の根底には自律神経の問題があると申し上げました。自律神経というのは、私たちの意識にはのぼりませんが、生きてゆく上で重要な身体諸器官の微調整を行っています。たとえば、心臓の動き、呼吸、腸の動き、体温、発汗などです。交感神経と副交感神経という自律神経が、あたかもあやつり人形の糸のように器官の機能を強めたり弱めたりして調整をしています。
低血圧というのは、この自律神経の調節不全を血圧という尺度で見ていると言い換えることができます。とすると、この調節不全は何も血管や心臓に限った話ではなく、自律神経が分布しているあらゆる器官に当てはまるということになります。ですから、低血圧の患者様というのは、めまいや立ちくらみだけでなく、便秘、下痢、冷え性、頭痛、肩こりなど、全身の症状を呈するのです。
全身的症状
倦怠感、易疲労、朝起き不良、低体温、乗り物酔いなど。
脳神経症状
めまい、立ちくらみ、浮動感、耳鳴り、失神、頭痛、頭重など
循環器系症状
動悸、息切れ、頻脈、不整脈など
呼吸器系症状
呼吸困難感、空気飢餓感、胸部不快、息切れなど
消化器症状
食欲不振、便秘、下痢、膨満感、腹鳴、ガス、嘔気、嘔吐、上腹部不快など
心理面の症状
低血圧のすべての人が同じ性格傾向であるとは限りませんが、おおむね一定の特徴があります。つまり、生真面目で融通が利かず、心配性でストレスに弱く、神経質で些細なことを気にしすぎるという性格傾向です。仕事や家事、育児、勉強などをこつこつと一生懸命、決して手を抜かずにがんばり、周囲からは有能な社員、学生、いい妻などと評されます。でも、それは裏を返せば、休息をとらない、自分をいたわらないということにつながり、結局心と身体には苦痛を強いているのです。これを過剰適応といいます。ご本人は、心と身体に悪影響が出ていることすら気付いていない場合があり、これを失体感症、失感情症などといいます。これらは悪化すると、うつや不安、恐怖などの精神面の異常を来たしてしまいます。
社会面の症状
低血圧は外からは見えませんし、激烈な症状があるわけでもなく、そのくせ長引きます。そのような特徴が、患者様の周囲の人々にさまざまな誤解を植えつけてしまいます。低血圧の患者様は朝起きることができずに学校や仕事に出かけられなかったりしますが、それを「なまけ」だとか「たるんでいる」とか「気の持ちようだ」などと周囲の人から言われ、それが心理的なストレスとなって精神面に変調をきたすということが起こります。これが低血圧にまつわる社会面での影響です。そのようなストレスは自律神経系に影響を及ぼし、さらに低血圧を助長させるという悪循環に陥ってしまいます。
このように、低血圧は心臓や血管だけではなくさまざまな問題を抱えた複合的な病気であると言え、まず私たちはそのような病気であると認識する必要があると言えます。 |